上田プロがツアー生活を送った2005年から2024年までの20年間は、キャロウェイのドライバーが多くの変革を辿ってきた時代でもあります。まだフルチタンヘッドが全盛だったなか、2002年のBIG BERTHA C4ドライバー(フルカーボンヘッド)でスタートしたカーボン素材の利用が、BIG BERTHA FUSION FT-3ドライバー(2005年 USモデル)やFT-5ドライバー(2007年)などから本格化。その後も、可変ウェイトの搭載やアジャスタブルホーゼルの採用、XRドライバー(2015年)での空力の最適化、2017年のGBB EPICシリーズで初登場となったJAILBREAKテクノロジー、EPIC FLASHシリーズ(2019年)で先鞭をつけたAIによるフェース設計PARADYM Ai SMOKEシリーズ(2024年)のAIスマートフェースによる弾道補正機能などなど、飛距離性能と安定した弾道を得るための新たなテクノロジーが続々と登場しました。
左下/EPIC FLASHシリーズ 右下/PARADYM Ai SMOKEシリーズ
ここで興味深いのが、上田プロが愛用したモデルの変遷です。気に入ったクラブを長く使用するタイプというイメージの上田プロですが、意外なほど多くのさまざまなドライバーをバッグに入れてきています。とくにここ数年は、毎年のように新しいシリーズにチェンジして、ツアーを戦ってきていました。しかし、これは飛距離がより優先されるカテゴリーだからこその話なのでしょう。
フェアウェイウッドやアイアンでも、ドライバーに倣うかのように、さまざまな進化がありましたが、上田プロは、スルーボアでキャロウェイらしさに溢れたXフェアウェイウッド(2006年)や、「300ヤードスプーン」の呼び名で一世を風靡したX HOTフェアウェイウッド(2013年)、キャロウェイ初の軟鉄鍛造アイアンであるX TOURアイアン(2005年)、そして軟鉄鍛造ボディに360°カップフェースを組み合わせたAPEXアイアン(2016年)、さらに15年も使用したというTRI HOT #3パター(2002年)など、一度自分の手のうちに入れたクラブは、何年にもわたって愛用。
ツアーを戦ううえでフェアウェイウッド以下のクラブは、飛距離性能よりも、イメージどおりの打ち出しや距離のコントロールといった部分の一貫性がいかに重要かを、如実に物語っているようなチョイスです。この妥協のないこだわりが、長年にわたって活躍できた理由の一つとも言えるかもしれません。
左下/X TOURアイアン 右下/APEXアイアン
これまでキャロウェイニュースでは上田プロに関するさまざまな情報を発信してきました。なかでも2018年に取材をした『思い出の“マイベストクラブ”』では、TRI HOT #3パターについて語ってくれていましたので、あらためてご紹介しておきましょう。
「自分にとってのお気に入りの1本と言えば、やっぱり、『TRI HOT #3パター』が衝撃的でしたね。15年は使っていたと思います。あのパターは打感も良くて、顔も良くて、とにかく入りました。なんだか、ボールとフェースのくっつき感が違ったんですよね。『ホワイト・ホット パター』もすごく好きだったのですが、それよりさらにくっついて、しかも初速が速く、ボールが前に前に行くんです。普通、くっつくパターは、ひっかけやすかったり、あまり前に出て行かない感じがしたりするんですが、『TRI HOT #3パター』は両方を備えていたんですよね。だからすごく好きでした」
元ツアー担当が語る上田プロの素顔とは
中島淳さんと本杉保さんは、キャロウェイの元ツアー担当として上田プロの契約当初から数えきれないほど試合会場に足を運び、上田プロのことをよく知っている2人でもあります。そんな中島さん、本杉さんにとっても、今回の発表は驚きだったそうです。
中島淳さん(以下:中島) 「本当に!?」という感じですよね。
本杉保さん(以下:本杉) 「マジ?」ってLINEを入れました。すぐに返信が来て、「そうなんです」と。やっぱりビックリというのが、最初の感想でした。以前もツアーから退くことについて、少し口にしていることがありましたが、これほど近い未来の話だとは思っていませんでしたから。
中島さんの胸にある、もっとも古い印象的な記憶は、上田プロが2006年の日本女子ツアー出場権をかけたファイナルクオリファイングトーナメント(QT)に挑んだときのことだそうで、「この子は、勝てるプロになるな」と思ったと言います。
中島 まだキャロウェイと契約する前です。QTはコースに出て見ることができないので、ハーフターンしてきたときの様子を伺っていたのですが、だいたいのプレーヤーが不安気な顔や苦しそうな表情をしているなか、上田プロは鼻息の荒そうな雰囲気で後半のスタートホールにやってきて、ブンブンと2回ほど素振りをし、ズバーンとティーショットを打って出ていったんです。
本杉さんが挙げた心に残るシーンも、上田プロの気持ちの強さを感じさせるものです。
本杉 2016年に熊本地震があり、翌年の2017年、その地元・熊本で行われたKTT杯バンテリンレディスオープンでは、首位に立って18番を迎えたのですが、1mほどのパットを打ち切れず、プレーオフになって負けてしまいました。でも、そこから数戦後の中京テレビ・ブリヂストンレディスオープンでは、これが決まれば優勝というパットをすごくしっかり打ったんです。絶対ショートさせないという感じで。「ああ、打っちゃった!」と思いましたが、それがガーンとカップの反対側に当たって入ったので、それはすごく彼女らしいなと思いました。
上田プロは、気に入ったクラブを長く使いつづけることでも知られており、例としてはX HOTフェアウェイウッド(2013年)やX TOURアイアン(2005年)、X FORGEDウェッジ(2007年)、TRI HOT #3パター(2002年)などがあります。中島さんは、X TOURアイアンのエピソードについて語ってくれました。
中島 最初に上田プロがキャロウェイと契約したとき、プロ向けのアイアンがキャロウェイになかったので、そのころキャロウェイ傘下にあったブランドのモデルを、「最高です」と言って使っていました。でも、「やさしいよ」と言って、シーズンオフにX TOURを2セット、送ってあげたんです。春になって、いざツアーが始まってみたら、X TOURをバッグに入れていて、「こっちのほうが簡単です。こっちのほうがいいです」と、コロッと変わっていました。それからは、ずっとX TOURでした。その後、アイアンの新たな溝規制がスタートし、X TOURアイアンが使えなくなったのですが、「これ、変えなきゃダメなの?」って何度も言ってくるくらい気に入ってくれていました。
一方で、上田プロがTRI HOT #3パターを長く使っていたのには、こんな理由もあったそうです。グリップの裏話も含めて、こう明かします。
中島 タッチが合うというのもあったんでしょうけど、上田プロが使っていたのは、おばあちゃんに買ってもらったものということで、大切にしたい気持ちも強かったんだと思いますよ。グリップはピンクリボン仕様のピンク色のものでしたが、それも大好きということで、ずっと変えませんでした。でも、さすがに時間が経つと、表面のしっとり感がなくなってきて、変えよう変えようと言いながら変えられない時期がかなりありました。ようやく変えたのは、何年かは覚えていませんが、三重県の賢島で行われたミズノクラシックでした。長く変えなかったものを変えることになったから、その試合がミズノクラシックだったことをいまも覚えているんです。そのときは、「新しいグリップで大丈夫かな」とすごくドキドキしながら練習グリーンまで見にいきましたし、変えるために切ったピンクリボンのグリップは、お守りにしようと言って、しばらくツアーバンに置いていました(笑)。
本杉 それと、このピンクリボンのグリップは、上田プロが使っていて目立っていたので、けっこうほかのプレーヤーにも人気だったんですよね。そのため、本当に一気に在庫がなくなって、変えるのも大変になった記憶があります。
さらに本杉さんは、クラブをあまり変えない上田プロの、意外な一面も教えてくれました。
本杉 パターに関していえば、じつは、ちょこちょこ別のタイプも使っていました。そのなかには、強いプレーヤーが使っているモデルだからという理由で試したものも、けっこうありましたね。結局は、タッチが出ないといった理由で、元に戻ることが多かったですが。でも、いいものはいいと思う合理的なタイプであり、それだけいろんな人を見ているということでもありますよね。同じ組で一緒に回る人のこともすごく見ていましたし、あの人はどうだった、こうだったといったことも、すごく言ってきました。ジュニアの子であっても、「あの子、すごくいいゴルフをしていた」といった話を、よくしていましたね。
もちろん、周りに対してアンテナを張りながらも、「試合への集中力はすごかった」と、中島さんも本杉さんも口を揃えます。
本杉 試合モードに入っているときは、やっぱり僕たちも話しかけづらい感じはありました。もちろん、それはあくまで、試合のなかでの話ですが。練習場でも、あまり気軽に話せなかったです。勝つために準備をしにきているのですから、当然とも言えます。試合に入り込んでいる雰囲気は、プロのなかでもいちばん感じさせる選手だったかもしれません。そこはやっぱり、本当にプロフェッショナルですね。
中島 たしかに、練習場でほかの人としゃべっているとかいったことは、ほとんどなかったように思います。一瞬くらいは話すけれど、自分がやることを徹底していました。上田プロは9番アイアンの練習が多いのですが、思った弾道、スピン、同じ曲がり幅になるまで、ひたすら打ちつづけて、試合に集中していましたよね。
そんな張り詰めた環境から離れる、今後の上田プロに対して、2人はどのような期待をしているのでしょうか。最後にたずねてみました。
本杉 ツアーに関しては、もう本当にお疲れさまでしたの一言です。もちろん、今後もキャロウェイとはずっと関わってほしいですね。
中島 やっぱりゴルフ界の顔の1人だと思いますし、ゴルフに関してできることをやっていってくれたらうれしいですよね。JLPGAがもっともっと良くなることや、もちろんキャロウェイとも何かしらの形で。ファンの人たちといろんなことをやったり、アマチュアの方が参加するキャロウェイカップのように、上田プロの名前を冠したイベントなどもできたりしたらいいんじゃないですか。
本杉 彼女は、人に教えるのも上手で、わかりやすいですからね。
中島 あと、顔も広いし、しゃべりもうまいですから、逆にこれまで以上に忙しくなっちゃうんじゃないですか。キャロウェイも、やりたいことがあれば、早くスケジュールを抑えておかないと(笑)。